株式会社朝日ネット クラウドサービス部 副部長 森田真基 MASAMOTO MORITA |
御社提供の「manaba」ですが、大学の授業を変えるコミュニケーションツールとして注目されています。
「manaba」には「manaba folio(マナバ フォリオ)」と「manaba course(マナバ コース)」という2つのサービスがあります。「manaba folio」は学習の成果物を電子ポートフォリオに蓄積・評価できるシステムです。「manaba course」は授業単位で利用する、学習支援機能を搭載したSNSです。どちらもインターネットに接続できる環境であれば、24時間、教室の枠を越えて、自宅や外出先でも教員や学生がコミュニケーションできます。
まず、「manaba folio」は学びのポートフォリオ*2なのですが、今までも医療系の大学などでは、紙でポートフォリオをつくるという指導方法はありました。しかし、ポートフォリオを電子化しICTを絡めることで、できることは大きく広がります。「manaba folio」はそういう意味で注目されているのだと思います。
「manaba folio」では、学生はレポートのファイルをアップロードするだけで、先生に提出できるし、自分のポートフォリオにも貯まっていきます。これと同じことを紙でやろうとすると、大変です。レポートのたびにコピーを取って、ファイリングしていかなくてはいけません。がんばって紙のポートフォリオを作成しても、それを先生や他の学生に見せるためには、ファイルを回覧するか、さらにコピーを取らなくてはいけません。
「manaba folio」なら、学生は日々の学習で自動的にポートフォリオが形成され、インターネット環境があれば、いつでもどこからでもポートフォリオを見ることができます。
さらに、「manaba folio」は従来の授業では実現がむずかしかった「相互評価」も簡単にできるようになっています。学生が「自分はこういう風に書いたけど、友人のA君はどんなレポートを書いているんだろう」と思ったら、「manaba folio」にアクセスして、他の人のレポートを見ることができます。
これまでの授業は「先生 対 学生個人」の評価だけでしたが、「manaba folio」を利用することで、「学生同士」の網目状の評価ができることになるのです。
「manaba folio」の最大のメリットは、「可視化」です。ポートフォリオにはレポートだけでなく、先生からの評価や自分で作成した学習資料も貯まっていきます。学生は自分がどんな勉強をしてきたか、ポートフォリオを見れば振り返ることができますし、先生も学生のポートフォリオを見ることで、学習のプロセスを俯瞰できます。
現在、「manaba folio」で作成したポートフォリオを電子書籍化する機能の開発を進めています。レポートや卒論を電子書籍化すると、就職活動の時に企業に対し、学習成果をアピールするために持って行くということができるようになります。
美術系の学校では、就職活動の際にポートフォリオ(作品集)を企業に持って行くということは行われていますが、「manaba folio」に電子書籍化機能が加わることで、どの学科の大学もできるようになるわけです。学生が大学で何を学んできたか具体的に見ることができることは、企業にとってもメリットになるはずです。これからは、「manaba folio」のポートフォリオを電子書籍化して、履歴書と一緒に提出するという新しい就職活動のやり方がスタンダードになればよいなと考えています。
ポートフォリオを電子書籍化して就職活動の時に利用できるようになると、他にもさまざまな効果が生まれると思っています。まず、学生は入学時から真摯に学習に取り組むようになるでしょう。「入学してこれから勉強することが、そのまま就職に活きてくる」と学生が実感するからです。もう一つ、企業側にとっては、「あの大学の先生はこういう講義をするのか」という視点も生まれてくるでしょう。近年、FD(ファカルティ・デベロップメント)*3ということが言われていますが、ポートフォリオを企業に対して公開することで、第三者(=企業)の評価の視点が入り、結果的に大学の教育の質の向上に貢献することになるとも思っています。
*1 全国34の大学
2010年7月30日現在。
*2 ポートフォリオ
作品や資料、成績などあらゆる学習の成果物を一元的に蓄積したもの。
*3 FD
Faculty Developmentの略。大学教員の資質・能力の向上を目指すの意味。