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配信の先行業界「音楽」から学べ

 今日ここにお見えの方は経営者、社長さんが多いと伺っておりますので、一番気になるのは儲かるかどうかでしょう。先ほど申し上げましたけれども、電子書籍は現在の時点では儲かっていません。2009年の電子書籍全体の売上が240億円といわれています。これはケータイ・コンテンツなども含めた数字です。確かに一時はケータイ電話でマンガを見るとか、ケータイ小説が話題になりました。けれども今は鎮静化しているようです。しかし、このようなデジタルメディアを考える時、我々出版メディアの者が参考にすべきなのは音楽です。

 今ももちろんCDショップはあります。でも、ダウンロードも珍しくなくなってきています。持ち運びという点ではもうCDウォークマンのようなものは見かけません。小さなiPodのようなものが主流です。ここに音楽を収納しているわけです。これも話を聞くと違法ダウンロードがきっかけで、やむなくこういう方法を採ったそうですが、ダウンロード販売は少しずつ定着してきています。半年後か一年後か三年後か、どれくらいの将来かは分りませんけれども、近い将来には出版メディアも音楽の後を追うことは間違いないでしょう。事実、ニュースなんかはPCやケータイ電話で見る人も増えてきています。調べものなんかもそう。少しずつネットで情報を見ることに抵抗がなくなってきているのではありませんか?

 儲からないものにコストはかけられないと思われるでしょう。でも、音楽などは違法が氾濫してやむなくネット配信が進みました。CDを買うやつは愚か者といった風潮がもともと後押ししていたから、わりとスムースに移行していったのだと思います。止むに止まれぬ事情があったわけです。マンガなんかも違法サイトがたくさんあります。マンガはビジュアル面もあり比較的読みやすいのかもしれません。取り締まりもしていますけれど、違法サイトはなかなか減りません。イタチごっこですね。

 実はインターネットというのは、そもそものスタート時点から無料という発想なんです。ネット上にあるものは、特に情報は無料からはじまっていますから、情報を売って収益を上げるのは難しい。情報がいったんネットで流れてしまうと、もうその情報は全世界のユーザーの共有財産になってしまいます。その分、良い情報、面白い情報は宣伝しなくても勝手にコピーされて広まっていきます。

 グーグルマップや乗り換え案内などはとても便利で、今やあって当たり前。わざわざ金なんか払う気にもなりません。かつては道路マップを何種類か車に積んでドライブに行きましたけど、カーナビがあればそんな面倒なものはいらないのと同じ事です。

 ではこれら情報を発信する費用はどうするのかといえば、いくつか方法があります。

 ダイナミック・アークでは課金という方法を採っています。これは一般的ですね。お客さんからお金をいただいているわけです。しかし、この方法で巧くいっているサイトは少ない。クレジットカードによる決済が多いのですけど、クレジット番号を打ち込むのにためらいがある。もうひとつは、二十歳以下の対象商品だと、彼らはクレジットカードを持っていない人が多いわけです。ケータイ電話は暗証番号を打ち込むことで、通信費と共に引き落とされる仕組みですから、若年層でも購入が可能です。これによってケータイ配信は消費が延びたとも考えられます。電子マネーなども出ていますけれども、まだまだ普及していないと思います。

 もうひとつの方法が広告で賄う。いわゆるバナー広告です。ヤフーなどのポータルサイトは広告で運営されているわけです。フリーペーパーと同じ構造と考えていただければ理解しやすいかと思います。広告費はそのサイトのアクセス数によって多寡が決まります。ただ、大きなサイトはなんとかなっていますが、現在の不況下では広告費も削られる傾向にはあるようですけど。

 なんとか儲かっているものがあるとすれば通販サイトでしょうか。物を買うという点ではまだ不正は少なく、売れれば儲かるようです。

デジタルメディアのインフラ整備完了

 で、ここからが本題です。

 最盛期には三万軒以上あった書店が減ってきて、現在は一万数千軒。近所の書店に行っても欲しい本が手に入らなくなっています。

 東京に住んでいれば、無理すればなんとかなるかもしれませんが、地方だと悲惨な状態でしょう。出版社がどんなに頑張ってもこの状況を改善できるとはちょっと思えません。ですから望むと望まざるとにかかわらず、書店で売っているようなものはいずれデジタル配信に変わっていく。今はコンビニがある程度書店の代わりをしてますけど、コンビニは一週間とか二週間とか短期間で商品が入れ替わってしまいますから、情報保存には向かないんです。

 我々は情報――小説やマンガや写真や記事などを創ったり、まとめたり、つまりプロデュースやディレクションする能力、ノウハウがあります。これまでは、その発信を出版社に委ねてきました。情報発信の流通システムを出版社が独占していたので委ねざるを得ませんでした。

 けれども、インターネットとデジタル化によってその流通システムに依存しなくても、情報発信できるようになり、かつ、情報をユーザーが受け取る環境が整ってきているのが今、2010年なんじゃないかと思います。

 先ほどもいいましたけど、大資本の出版社は本格的にこの分野に入ってきません。とはいっても世間の流れがデジタルに向かっていますので、いずれ無視もできなくなるでしょう。我々はその前になんとかしたい。もっといえば、大資本と違うアプローチをしたい。

 十年前、2000年頃にWeb2.0ということがしきりに提唱されました。これがなんだったかというと、ユーザー参加型という概念なんです。たとえばブログ、今はツィッターですか、従来は製品を受け取るだけだった人たちが自ら情報を発信したり、提供された情報を論評したり、批判したり、中にはプロ顔負けの作品を発表したり。

 むろん彼らはアマチュアですから著作権侵害の問題があったり、内容に甘さがあったりと、そのままでは製品になりません。しかし最新の情報に関しては大変ビビッドな感覚を持っており、この点については我々オジサン世代は絶対についていけないんです。このように情報に敏感で、しかも発信の手段を持っている人たちを、我々ノウハウを持っている者がプロデュースしたり、ディレクションしてあげるのも面白いかもしれません。

 数年前から著作権の保護期間が議論されています。著者の死後五十年が現在の保護期間ですが、これを欧米なみの七十年に延ばそう、いや今のままでいいと結論が出ていません。そんな中、延長派から「著作物は数十年経ってから再評価されることもあり得る」との意見があります。延長すべきか否かはともかくとして、良い作品は何十年経っても古びないはずですし、また再評価されるためには何らかの形で残っていなければなりません。現在のように情報を消費していると、残って再評価などされるわけがありません。

 我々は、紙の世代でデジタルメディアなんか信用できないのも本当です。けれども、逆転現象もあるのではないでしょうか。つまりネットで多くの人に評価され誰がゆえに紙になった。ケータイ小説などはまさにそのパターンです。

 現時点ではネット配信は儲かりません。

 このために考えなくてはならないことは、ひとつには徹底的にコストを圧縮すること。

 これはネットなら可能です。紙の本を制作する時だって、今は原稿はデータですし、写真もデジカメデータですから、ひとつの手間でいくらでも再利用できます。どうやればいいのか、個別でご相談に乗ることはできますので興味のある方はご連絡下さい。

 そして、新しいビジネスモデルです。課金のやり方や広告での運営は頭打ちに来ています。別のビジネスモデルを考えることができれば成功するかもしれません。

 そして肝心なことは、配信に関する権利を留保しておくこと。著作権法上、電子配信は公衆送信権、送信可能化権、そして複製権です。いままでの紙の本は出版権。出版社が著者から許諾されているのは出版権だけでしたから、他の権利は著者に残ったままだったわけです。でも、出版社は今現在使うつもりのない公衆送信権なども出版契約書の中に書いて、権利を獲得しようとしています。もし、公衆送信権が獲得するならば、いつ、どういう方法で使用するのか問い合わせて下さい。明確な回答がなければ、今は使う予定がないわけで、その権利は留保しておくべきでしょう。

 インターネットやケータイ電話でさまざまなサイトをご覧になって、単に見ているだけでなくその仕組みを探ってみて下さい。どうやって制作しているのか、運営費はどうやっているのか、どうやって稼いでいるのか。おそらくみなさんは新しい紙の雑誌をご覧になった時には、そんな風に見ているはずです。サイトを見る時に同じ事をしていると何か見えてくるかもしれません。

 私の話はこれでお終いです。参考になれば幸いです。

この原稿は2月24日に行われた教材・デジタル合同部会で行われた講演を基に構成したものです。

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