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会長 伊東 孝氏・店長 伊東 紗智子氏 被災地から見た本の役割

街の本屋さんはその土地の暮らしと直結している。
本屋さんを見れば、地元の方々がどんな生活をしているかが少なからず見えてくるはずだ。
今号では、東日本大震災から2年9カ月過ぎた被災地の本屋さんを訪ねてみた。
被災地の中でも壊滅的被害を受けた陸前高田市。
震災前も市内で唯一の本屋さんであり、震災後は、仮設店舗で営業を再開した「伊東文具店」。
伊東文具店の会長 伊東孝さん(60歳)と孝さんの次女であり、店長を務める紗智子さん(32歳)に率直な疑問をぶつけてみた。
「被災地における本の役割って、何ですか?」

陸前高田市について

陸前高田市は、三陸海岸の南部に位置し、砂洲に高田松原と呼ばれる7万本の松林で有名な、カキ・ホタテ・ホヤなどの養殖漁業で栄えた町。海岸からなだらかにつづく低地に発展した市街地中心部を東日本大震災の大津波が直撃。市役所・図書館・市民体育館・商店街・ショッピングセンター・住宅街すべてが海にのみこまれ、市内唯一の本屋「伊東文具店」も流された。被害状況は、死者1556名、行方不明者215名、倒壊家屋3341棟(2013年11月30日現在)。被害は最も甚大だった。現在は市街中心部の機能を隣町の竹駒町に移し、飲食店も再開されている。


町がまるごと海に沈んだ陸前高田の市街地

初めて震災後の陸前高田を訪れたのですが、住居がなくなるという部分的被害ではなく、市街地まるごとが津波に流されて広大な更地と化した光景を目の当たりにして絶句しました。本当にここに街があったのかと。とても想像しがたい状況です。伊東文具店さんも市街地に店を構えていたんでしょうか。

会長:はい。震災時は、文房具店の本店は駅前通りという大きな通りに構えていて、書籍部門は「ブックランドいとう」という名称で海岸近くのショッピングセンターで営業をしていました。その日、私は本店で仕事をしていたんですけれど、ショッピングセンターの理事をしていましたので、地震が起きてすぐ「ブックランドいとう」に駆けつけて従業員たちを避難誘導し、高台に逃げたんです。紗智子も「ブックランドいとう」で働いていたんですが、お年寄りのお客さまを避難させようと別行動になってしまって、離ればなれになりました。再会できたのは次の日です。この津波で社長を務めていた弟夫婦とその息子、そして従業員が亡くなりました。

被害状況を知ったのはいつ頃ですか?

会長:私は、高台から街全体がすっぽりと海に覆われて、沈んでしまった状況を見ていましたから、その時点でわかっていました。それで、本店で働いていた弟夫婦と長男が戻ってきませんでしたので、津波にのみこまれたなということも次の日にはわかっていました。弟が本店を片付けてシャッターを閉めている姿は目撃されていて、それが最期になります。

震災前は、街のよくある本屋さんだったんですよね。

会長:そうです。子どもからお年寄りまで地元の人が通う本屋でした。

そこからこれまでの生活が一転するわけですが、仮設店舗でお店を再開は早かったと伺っています。いつ頃再開したのでしょうか。

会長:文房具店の営業は2011年4月15日に再開しました。震災があった当時は、「お店のことをどうしようか」「商売をどうしようか」ということは、全然頭に浮かんできませんでした。あったのは「なにもかもなくなったなぁ」ということと、次の日から弟家族が戻ってこないということがわかりましたので、(遺体を)探すことでいっぱいだったのです。しかも、その状況の中で生活をしていかなければならなかったので、本当にそれどころではなかったんです。最初の頃は、いろんな方たちに「(店を)再開しよう」と言われましたが、お店を再開したとしても、お客さまが物を買いに来るということすらないだろうと思っていました。けれど、弟らが見つかり、学校の新学期が4月20日に始まることが決まり、少しずつ気持ちが変わっていったのです。新学期が始まっても子どもたちが文房具を買うところがなかったので、学校が始まる前にオープンさせる必要があったんです。取引先の問屋さんなどいろんな方たちの後押しと援助があって、仮設店舗をオープンすることができました。

その時点では文房具のみで書籍はまだですよね。書籍部門の再開の経緯は?

会長:最初は12坪の仮設店舗でのスタートだったので、狭くて書籍を置けるスペースがなかったんです。震災関連の写真集を置くくらいで。お客さまにとっては「伊東文具店」というと文具と本屋というイメージがあったので「本は置かないんですか?」「いつから本屋は始めるんですか?」と言われ続けました。こういう状況だからなのか、こういう状況にもかかわらずなのかわかりませんけれども、ひと月経って「日常」とは言えませんが、少しずつ「平常」を取り戻しつつあったのです。「好きな本や雑誌を読みたい」「震災前は毎月購読していたけれど、どうなるのか」という声をたくさんいただきました。大変嬉しいことです。できるだけご要望に応えようとプレハブを建てようかと考えもしましたが、店舗の土地を借りていた分、なかなかスペースがとれなくて……。そこで別の場所を探して、2011年12月15日に書籍部門をオープンすることになったのです。

その時の光景を覚えていますか。

紗智子店長(以下店長):よく覚えています。震災前のお店の雰囲気が戻ったような気がしました。とても懐かしいような、なんとも言えない気持ちになりました。懐かしさがこみ上げてきて、お店に入ってみた雰囲気に感激しました。なんだか、店内が以前に比べて明るくなったような気がして。震災前の本屋は100坪あったので、3分の1の規模しかないんですけど、そう感じました。

お客さまの反応はいかがでしたか。

店長:お客さまも私と同じ気持ちだったと思います。店内に入ると本がたくさん並んでいたので、「わぁ!」という歓声が上がりました。「ありがとね」「やっぱり本はいいね」とたくさんのお客さまにお声がけをしてもらいました。

地元の方々にとって震災前の街の面影を感じられる場所になったんですね。オープン当初の売行きはいかがでしたか。

会長:震災関連の写真集が売れました。みなさん、一人10冊とか、何種類もの写真集をまとめ買いされる方もいて、懐かしさもあったでしょうし、高田以外のご家族に送ったり、支援してくれた方々にお礼として送ったりと、用途はさまざまです。高田は街ごとなくなってしまったので、昔の面影がありません。震災前の街並みを記憶だけでなく写真を通じて残しておきたいという気持ちがあったんだと思います。
店長:震災関連の写真集は一日100冊以上も売れて入れてもすぐなくなりました。特に売行きがよかったのが、陸前高田市のタクミ印刷が発行した『未来へ伝えたい陸前高田』という写真集です。この本は、震災でなくなってしまった街並みが載っているんですが、全部地元の方々が撮った写真で構成されているんですね。それを集めて一冊にした本なんです。あとは、なかだえりさんの『奇跡の一本松』という絵本や「千の風になって」の翻訳・作曲で有名な新井満さんの写真詩集『希望の木』も売れました。家族を亡くした人たちが多いので、そうした人たちへの思いを伝えた本が必要とされていました。

その状況はどれくらい続きましたか。

店長:震災から一年以上は続きましたね。そろそろ落ち着くかなと思って仕入れを止めようかなと思っていても関係なくて。あとは、一時、仏教の本など“心のケア” をテーマにした本も売れていきましたが、今はだいぶ落ち着いています。

震災で再認識した本屋さんの役割

陸前高田では今も仮設住宅に住んでいらっしゃる方が多いですが、こうした仮設住宅に住む方はどのような本を求めているのでしょうか。

店長:仮設住宅に住むからとかはあまり関係なくて、自分の好きな作家の本だったり、マンガだったり、趣味の本をよくまとめ買いされています。「置く場所がないけどね」とおっしゃりながらも本をまとめ買いする姿を見て、部屋は狭いけれど、自分の好きな本にはお金を惜しみたくないんだなと思いました。

仮設住宅にお住まいの方に暮らしぶりをたずねると、薄い壁で隣り合わせの生活で、夜シャワーを浴びることも憚れるとお話を伺いました。ラーメンをすする音にも気を遣わなければいけないとか。その意味では本は自分だけの世界にこもれるアイテムなので、少しでも気がまぎれるのかなと感じましたが。

店長:そうですね。私自身は震災後にアパートを借りたので仮設の大変さをわかっているわけではありませんが、仮設で過ごすご年配の方は、震災前よりも本を読んだりする時間が増えているかもしれません。

会長:店舗自体は震災前よりも小さいので、売上げは減っていますが、相対的に見れば、以前より本の売行きはいいかもしれないです。

本が置くスペースがない中で本を買っていただけるのは嬉しいことですね。震災後、お客さまが求める本が変わったなと感じたことはありますか?

店長:ある日、仮設にお住まいの方が海外旅行の本を手にして「本当に行くわけではないんだけどね」と言いながらも本を購入されたことがありました。私も「見るだけでも楽しいですよね」とお声がけをしたのですが、本を読むことで気分が変わるんだろうなと。そういう本の役割もあるんだと思いました。

実は店内を拝見した第一印象が「明るい」だったんです。もっと心のケアや生き方をテーマにした本などが平積みされていると思っていましたから。手芸や編み物の本も充実していますよね。

店長:お客さまは余暇とか楽しみを求めて本をさがしていらっしゃるんだと思います。心のケアのために本を読むとかではなくて、なんというか、本って眺めているだけでも楽しいじゃないですか。手芸は作ったからどうというわけではないですけれど、作ったものを私たちに見せにくるお客さまもいらっしゃる。そういうやりとりが楽しいです。

大変な状況だからこそ、何気ないやりとりはありがたいですね。

店長:私自身、お客さまには本当に元気づけられています。具体的にはなかなか言えないんですけど、お客さまが本の内容を教えてくれたりすることもあって、そうした時のお客さまの顔ってとてもいい表情なんですね。見ているだけでこちらも嬉しくなります。

その意味では震災前と震災後で一番変わったことは接客なのかもしれませんね。

会長:そうですね。仮設住まいになって、あまり人と会話することがない方も多くなりましたから、お店に寄ると一生懸命お話ししてくださいます。震災前は常連のお客さまとの会話が多かったのですが、震災後はそうでないお客さまともレジを挟んで会話をするというのが多くなりました。みなさんお話をしたいんだと思います。別にこっちが意識して声をかけようとしているわけではないですが、コミュニケーションが増えました。震災前はレジにお客さまが並んでいたりして、会話をする余裕もなかったというのもありますけれど。


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