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書評家 石井千湖 氏 読者と作家をつなげる書評家の仕事

本がつまらないのは自分がつまらない可能性が高い

なるほど、書評も読者視点をもつことが大事なんですね。それでもなかなか自分のフィルターを外すのって難しいと思いますが、石井さんはその点で心がけていることはありますか?

確かに自分のフィルターを外していくのは難しいんですけれども、何度か同じ作品を読んでいくうちに自然とそのフィルターはなくなっていくような気がします。最初はよくわからないと思った作品も何度も読んでいくと、自然と面白いポイントを発見することができる。これは書評に限ったことではなく、個人の読者体験にも通じることですね。先日、ある有名人にインタビューした時にもそのようなお話しになりました。その方が「初めは自分がつまらないと思っていた作品でも、数年経って読んでみるとすごく面白かったりすることがある。だから、その本がつまらないって感じるのは、実は自分がつまらない可能性が高い」っておっしゃっていたんです。

うーん、面白い発想ですね。

それは私も共感できることなんです。同じ文章でも読者によって異なる想像をするのが小説なので、つまらないと感じるのは自分のせいかもしれない。ですから、私自身も作品を読んで最初にピンとこなかった場合は、自分がわからないだけなのかもしれないと自分を疑うようにしています。そして、そう感じるのはなぜだろうと考えるんです。そしてまた再読する。それを繰り返していくとだんだん面白いポイントが見えてくるんですね。そういう読書を続けていけば、自分の価値観の幅も広がっていく。実は読書する行為って「面白い」だけではなくて、「つまらない」という感覚も大切なんじゃないかなと思います。今は、本がつまらないとすぐネット上で批判されてしまいますが、理想を言うと読者の方々には本を読んで「つまらない」と思った感覚も含めて読書を楽しんでいただけたらと思っています。

それこそが読書の醍醐味だったりしますよね。

そうなんですよね。私の場合は、文芸評論家でもないですし、文芸誌よりも一般読者をターゲットにした雑誌に書評を書くことが多いので、一般読者と同じ視点を持ち続ける必要があります。なので、一般読者のさまざまな価値観を拒絶せずに受け入れていく姿勢も大事なんだと思っているんです。なので、作品の良いところを見つけていく努力をすること、そしていろんな媒体の特徴をつかむことの2点が書評を書く上で大切になっていきますね。そうやって自分の幅を広げる訓練をしていけば、自分のフィルターを少しは外せるようになるんじゃないでしょうか。もちろん、完全に外すことはできませんけれども(笑)。

数多ある本の中から一冊を選ぶ方法

その意味では、どんな作品でも読んでみようとする好奇心も大切だと思うんですが、なかなか時間がない中で本を何冊も読むのは難しい。なので、できるだけ良い本に出会いたいという気持ちがあるんですが、石井さんは普段どんなふうに本を選んでいらっしゃるんでしょうか。

本選びって結構たいへんですよね。私はできるだけ書店に通うようにしています。書棚を見ていると惹かれる本と惹かれない本ってやっぱり出てくるんですね。実際に書棚を見て本を触ることを繰り返すからこそ磨かれる勘ってあるんじゃないでしょうか。私はリアル書店とネット書店のどちらの職場も経験しているので特にそう感じるのかもしれません。リアル書店では、納品された本たちを自分の手で箱から取り出し、仕分けして書棚にさす。一方、ネット書店ではパソコンでデータ納品された本たちを見る。リアル書店では読んでいない本のこともよく覚えていて、紙触りを含めて本をたくさん覚えることができたんですけど、ネット書店では本を覚えられなくなってしまったんです。まったく頭に入ってこないんですよ。その時、表紙から伝わる見えない情報ってたくさんあるんだなと実感しましたね。ですから、リアル書店に足を運んで自分の手でできるだけ本に触れてみる。すると自分の手に馴染む本が見つかるんです。

表紙から伝わる見えない情報とは紙触りとかでしょうか。

はい。紙触りは重要ですね。エンボス加工とか箔押しとか手触り感のある本が好きですね。もちろん装丁も重要です。装丁は作品の世界観を伝えるものなので、装丁で選ぶことも多いです。個人的に本を選ぶ手順としては、装丁を見てから手にとって手触りを確かめ、それから文の冒頭を読むようにしています。それで本を手放したくなくなったら本を買いますね。その意味では文の冒頭は、とても重要です。あと仕事で本を選ぶ場合は、やはり媒体の読者を想像してから買います。この読者ならどんな本を手にとるかなって。こんな装丁が気に入るかな、なんて考えながら選んでいますね。

読者の代表として本を選ぶのも書評家としての大切な役割なんですね。あと小説の場合は、作家で選ぶことが多いと思いますが、書評の場合はどうですか?

作家で選ぶということはできるだけしないようにしているんです。書評を書く時には人ではなく作品を見るように注意しています。なぜなら、なるべくいろんな本を紹介したいからです。すでに評価が定まっている人気作家の情報は読者もおさえていることが多いですし、自分の書評で「こんな本があったんだ」という発見をしていただけたらうれしいなあと思っています。書店に並ぶ本の多様性がなくなって単一化してしまうのが嫌なんですよ。個人的には人ではなく良い作品を、特に新人作家の作品を取り上げたいと思っています。一作目が売れないと次の本が出ないですから。

個人的にといいますと、石井さん自身で本を選べないこともあるんでしょうか?

時と場合によりますけれど、やはり話題の本をどうしても取り上げてほしいと編集者の方から言われることも多いですよね。流行をおさえるのも媒体の役目なので、否定するつもりはありません。ただ、知名度がまだ低い作家こそプロモーションが必要だと思うので、自分で企画して、『All About』というサイトで新人作家のインタビューシリーズを始めました。今二人の作家にインタビューをし、その記事がアップされています。私がこの人の次回作を読みたいって思う作家の本を取り上げることで、少しでもその作家の力になれれば本望ですね。


●All About「話題の本ガイド」

現在、生活総合情報サイト『All About』にて、「話題の本ガイド」として書評や著者インタビューを発信中の石井さん。第1回目の著者インタビューは、口コミで話題になった松田青子さんの『スタッキング可能』。第2回目は三島由紀夫賞にノミネートされた新人作家・小山田浩子さんの『工場』を取り上げている。ぜひアクセスしてみてほしい。

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