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時代とともに変化する教科書 美術が生徒にできること 光村図書出版株式会社 美術課編集長  橋本 英明 氏

平成18年、60年ぶりに教育基本法が見直された。それに伴い教科書の根幹である学習指導要領の改訂が行われ、平成20年に新学習指導要領が告示された。中学校では各教科、平成24年度からそれを完全実施。そのためか、いま教科書が変わりつつある。詰め込み式の知識習得型から、活用・応用できるような内容が求められているようだ。こうしたなか、従来の教科書の枠組みに捉われない編集で評判となった教科書がある。光村図書が発行する中学校向けの美術科の教科書だ。いったいどんな編集をしているのだろうか? この教科書を手がけた編集長の橋本英明氏に伺った。



光村図書出版株式会社 美術課編集長
橋本 英明氏 Hideaki Hashimoto

一般書籍と全国誌の編集長を経て、光村図書出版に入社。美術課の編集長を務める。中学校用検定教科書『美術1』『美術2・3上』『美術2・3下』、高等学校用検定教科書『美術1』『美術2』『美術3』の編集に携わる。

教科書はいったい誰のもの!?

これまでの美術の教科書といえば、美術作品と作家が掲載された美術史をなぞるようなものが多かったと思いますが、橋本さんが編集した中学校用教科書は従来のものから一線を画しています。たとえば一見開きで生徒が何をすべきか目標が明確に記されていますし、巻末には生徒たちが表現する際に必要な技法や用具の使い方が載っています。これまでの教科書にはこうした内容はなかったと思いますが、これはどういった意図で盛り込んでいるのでしょうか?

美術の授業時間減少が根底にあります。かつては2時間連続で美術を学ぶことが普通でしたが、今は美術の授業時間数は中学1年生で45時間、中学2・3年生は各35時間と、週に1時間程度しかありません。先生方は限られた時間のなかで効率よく指導しなければならないのですが、生徒たちの経験値が少なく、先生がヒントを示す、あるいはお手本を見せるなどしなければ、表現するにしてもイメージがつかないわけです。しかし、現状ではそんな時間を確保できません。先生がきめ細かな個別指導をしなくてもよいように、巻末に資料を設けることにしたのです。

先生にとって大変ありがたいことですね。

とくに美術というのは、国語のように教科書を中心に文章を読み書きするような教科ではありません。芸術系のなかでも音楽であれば、教科書に五線譜があり、歌詞がありと実用性が高いのですが、美術は手を使って描いたりつくったりする実技の時間が大半を占めているので、じっくり教科書を見たり、学期のはじめから教科書にそって先生が指導したりという教科ではありません。ですから、先生が目次を見るだけで年間指導計画が立てやすいように工夫するなど、本としての機能性も考えています。

なるほど、たしかに様々なアイコンを使っていたり、インデックスが色分けされていたりと随所に工夫が見られて大変わかりやすい。いったい、どんな編集方針があったのでしょうか?

それは二つあります。一つは生徒の視点に立つということ。教科書を選ぶのは先生ですが、エンドユーザーである読者は、あくまでも生徒。当たり前ですけれど、この教科書は中学生のためのものです。
もう一つは、先生の役に立ちたいということ。お節介かもしれないですが、限られた時間のなかで、先生が円滑に授業を進められるようにしたい。美術の先生は原則、中学校に一人しか在籍していないため、公務などの業務でかなり忙しい状況にあります。そんな忙しい先生の役に立ちたいという思いもあります。

だから、使いやすいといわれる教科書になっているのですね。では、生徒の視点に立つということはどういうことなのでしょうか?

たとえば、美術の教科書には「自画像を描く」という題材があるのですが、ここには「今を生きる自分、なりたい未来の自分をテーマに、ふさわしい表現方法であらわそう。そして、作品に対する思いを言葉にして添えてみよう」というねらいを提示しています。さらに、アンジェラ・アキさんの詞『手紙 ~拝啓十五の君へ~』を掲載しています。

歌詞ですか!?

はい、教科書の読者である14、15歳というのは、未来に希望もあるけれども不安もある、非常に心が揺らぐ年頃です。けれど、アンジェラさんのこの詩には肯定的に前向きに生きようというメッセージが込められています。現代は、がむしゃらに頑張ればなんとかなるという時代でもないだろうし、自信をなくしている生徒が多いと感じます。少なからず自己否定をしてしまう生徒がいるなかで、自分を否定しないで自己肯定感をもって自画像を描いてほしい。そして、なぜこうした自画像を描いたのかを言葉にすることで、全国にそれぞれの思いを抱いた同じ中学生の仲間がいることを知ってほしい。だから、この題材では作家の作品よりも生徒の作品を多く掲載しています。

それは生徒の視点に本当に立たないと出てこない発想ですね。

出てこないですね。中学生の気持ちと感覚になってみないと出てこない。それは編集者にとって一番大事な視点です。スタッフにも「読者は誰だろう?」ということを繰り返し言っていますね。義務教育の教科書の場合、それがブレては意味がない。細部の編集に入るとつい忘れる瞬間もあるので、かなり注意をしています。編集会議では「中学生の立場になったらどうだろう?」「中学1年生の気持ちはどうなの?」と掘り下げて聞くようにしています。中学1年生の場合は、少し前まで小学生だったわけで、心の中では「ドキドキしてどうしよう」「友達とは別れちゃったけれどどうしよう」と思っているでしょうし、中学3年生の場合は「あっという間に3年経っちゃってどうしよう」「受験どうしよう」という気持ちを抱えているでしょう。そういう気持ちを各教科で支えていくわけですけれど、その時「美術にできることは何?」という視点は忘れずにいようということを常日頃から言っていますね。

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