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佐渡島庸平氏講演「新・編集者~時代に合った新しい編集者像とは?」

講談社に入社して『モーニング』の配属となり、マンガ雑誌の編集を10年間やっていました。『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』といった漫画作品だけでなく、伊坂幸太郎さんや平野啓一郎さんの小説も担当しました。別の部署を巻き込んで、企画を進めることもありました。様々なことを講談社で経験して、2012年に「コルク」という会社を立ち上げたんです。あと少しで4年になります。

編集者といっても言葉がひとくくりになるのですが、雑誌を作るのと、作家と一緒に作品を作るのとでは、まったくタイプが違うのだろうと思います。さらに、ぼくのやっている作家エージェントというのも、似たような職業ですが、考え方は相違うだろうと思います。

ぼくが『モーニング』にいた時は、すでに『モーニング』というメデイアが確固としてあって、影響力が大きかった。たとえば、安野モヨコさんは、基本的にそれまでは、女性向きの恋愛を描いていました。けれども、『モーニング』では『働きマン』という「働く」ことをテーマにした漫画を連載し大ヒットしたわけです。なぜ『働きマン』を描いたのか。僕は『働きマン』に関しては途中からの担当ですが、分かりやすい例になるので、『働きマン』で話します。『モーニング』は30~40代男性に向けて売っている雑誌ですから、そこで描くなら、その世代の男性に向けて描くのがいい。だから、女性が主人公でもそういう作品に出来上がった。

つまり、今までメディアが限られていたので、作家がメディアに合わせて作品を作っていた。けれど今、インターネットによってその限界はなくなりました。

リアルとデジタルという言い方をするのですが、それは簡単に分けられず、ぼくは、地続きだと思っているんですね。リアルの方が手触りがあっていい、と思っている方が多いと思うのですが、先ほど言ったように、リアルはメディアの形に作家が合わせていかないと、売れないんです。しかし、デジタルの時代になると、作家はより自由になる。デジタルを活用することによって、人にやさしく、伝わりやすくなるのです。


2012年に独立する1年位前、ぼくの同級生ががんで亡くなりました。途中で治りかかって、一緒にゴルフに行ったりしていましたが、もう少しで働けるかも、という時に、急に悪化した。亡くなる前日、彼は、「元気になって仕事がしたい」と言うんです。その言葉を聞いた時、ハッとしました。

友だちは、大学を卒業して、すぐ会社を立ち上げたんですね。いろいろ苦労して、認められて、これから、という時に、がんで倒れた。ぼくにだって、そんなふうになる可能性が確実にあるな、と思ったら、今のままでいいのか、と思ったんです。大きな会社で仕事をしていると、仕組みを変えようと思っても、10年くらい時間をかけないとならない。ならば、と思って、独立したんです。

僕が立ち上げたコルクのビジネスは 「作家エージェント」です。作家と一緒に作品を作り、どのようにして世の中に作品を売り出していくか戦略を立てる。どのメディアで、どのように展開すると、より多くの人に届けられるか、を考えるんです。

最近の例では、平野啓一郎さんの『マチネの終わりに』という作品があります。これはぼくらがエージェントとして入る前に、毎日新聞への連載が決まっていました。それを、ネットで、すぐに配信させてください、とお願いしました。毎日新聞の担当者が社内を説得するために、影響がない、というデータを用意しました。担当者は社内の反対を説得してくれて、「毎日のデジタル部門」、「note」「ケークス」の3カ所にデジタルでは掲載しました。

電子書籍はコルクで取り扱うので、宣伝も協力しあいます。モーフォイングという美大生、現代アーティストとコネクションの強い会社があります。そこに頼んで、現代アーチスト10人に、『マチネの終わりに』からインスピレーションを受けた作品を作ってもらって、単行本刊行と同時に、渋谷ヒカリエで、展覧会を開いたんです。

単行本を出す時、うちも宣伝をやり、毎日新聞もケークスも宣伝して、同時に出したことで、普段より単行本が売れた。そんな成功事例があると、毎日新聞さんもすごくやりやすいとなり、次からまた、新しい作家さんも同じ取り組みができるというふうになってきたんですね。


「社会」を編集する編集者

独立して驚いたのは、編集者という職業に対する世間の注目度だったんですね。編集者は、集めて編む、集まった情報を他人が理解しやすいように、わかりやすく、順番を変えて構成し直す。どういう順番が伝わりやすいかを考えるのが一番重要な仕事です。

その編集者の能力を必要としているのは、今や出版社だけではない。じつは、本ではなくて、「社会」を編集する時代になっている、というのをぼくは実感しています。社会を編集するとはどういうことか。

 たとえば、戦後のものがない時には、すばやく、ものを提供した企業が成功した。ものが行き渡ると、品質のいいものを作った企業が勝ち、ソニーやトヨタ、ホンダやパナソニックが生まれ、海外にも出て行くようになった。1970年代には、デザインがいいものが求められた。デパートの袋など、身近なものにもデザイナーが入った。デザインが特別なものだけだったところから、20~30年間くらいかかっています。

 1990から2010年くらいに広がっていったすごく象徴的な時代。そのトップオブザトップとして象徴が、佐藤可士和(カシワ)さんなんですね。何にでもデザインが入ってくる。デザインされていないものはないわけです。

2000年代を象徴しているのは何かというと、ユニクロの時代だと思っています。質がよくて、安くて、デザインもいい。そして現在は、それすら当たり前になっていて、自分は何がほしいのか、ほしいものが見つからない時代になってきた。

安くて、質がいいものが簡単に買えるようになって、ブランド品をなぜ買うのか、という疑問が出てくる。ブランドが、じつは苦しくなってきた時代。ものの価値が変わってきているんです。

それは、「水」の売り方に象徴される。もともと、水は売っていなかった。そこで、質がいい水を作ったら、売れた。質がいいことを保証するため、水の産地で長らくブランディングしてきた。そこから、ペットボトルを簡単に捨てることができて環境にいいという、新しいコンセプトが出てきた。質がいいのは当たり前になったので、そこに追加される別のイメージによって、「いろはす」が売れたんですね。次に、Volvicは、購入するとアフリカに井戸ができたり、木が植えられたりする。あなたが買うと、こう世の中が変わりますよ、といった、新しい切り口のストーリーが、ものと一緒になることで、売れるようになった。

では、そのストーリーを編集するのは、誰だ?ということになります。編集者の能力が、もっともっと他の企業と結びつくと、いままでとは異なる目線での提案ができるんです。


では、最近、コルクであった面白い成功事例の紹介をします。

著者像

小山宙哉さんの作品、『宇宙兄弟』の中に出てくる「絵名のヘアピン」というのを作りました。北村絵名というキャラクターが宇宙へ行く時、気持ちをびしっとするために、妹から渡されるヘアピンがある。お姉さんが気持ちに気合いを入れる時「ヘアピンつけるね」と言って宇宙へ出かける。いいエピソードだな、と思っていて、うちの女性社員が「ヘアピン作りたい」と言った。ただ千個単位でないと、作れない。売れるか不安だったけど、作りました。結果は、1週間くらいで完売しました。ファンの人たちは、「ヘアピン」でなくて、「びしっとする気持ち」を買ったんです。特別なことがある日に、鏡の前で気合いを入れるってたいへんですが、宇宙兄弟のヘアピンをつけると、宇宙兄弟の気合いを入れるシーンの気持ちが再現できる。世の中に、「びしっとする気持ち」って売っていませんね。ぼくらは世の中で売っていないものを売ったんです。びしっとする気持ちなら、じつは高くはなかった。それからぼくらは、ただのものを作るのはやめて、「ものに宿っている気持ち」を探そう、ということになった。


本を編集する時、読む人の気持ちをコントロールしようとしていると思うんです。それを、本の中から外へ広げて編集してみれば、急に世界がぐっと広がってくる。ちなみに、ヘアピンを買ってくれた人には、その後、年賀状を届けたんです。小山宙哉から届くと思わないから、ファンの人はびっくりして、喜んでくれた。その他の商品の売れ行きが伸びてきたので、商品をお届けする段ボールもオリジナルのデザインにしたんです。すると、開ける時、箱を傷つけないようにすごく気を使って開けたりする。開けないで1日寝かした写真をSNSにアップしてくれるファンの方もいます。編集するということを、お客さんの生活にどう入っていけるか、と考えるようになった。お金をためて何かを買おう、ということがなくなってきている今、本来の買い物の「楽しい」「ワクワクする」という気持ちの大切さを、僕たちはもう一度提案しなおす。これは、「社会を編集すること」と考えると、編集者の仕事ではないでしょうか。


メルマガの重要性

ものがない時代と違って、ワクワク感をどう提供するかが重要になってくる。その中で、ぼくらが重要視しているのが「メルマガ」なんです。メルマガは、最強のメディアです。

人に親しく話しかけるのって、難しいですね。TwitterやFacebookは、ほぼ、ここで話しているのと同じで、これは街頭演説なんです。LINEは皆さんのプライベートタイムに入り込めるんですけど、短くしかしゃべれない。

それに比べると、メルマガはプライベートに入れるんです。丁寧にこっちが何を考えているのか話せて、人を説得させることができる。

一般的な広告だけが載っているメルマガのせいで、うっとうしいという印象をもっている方がほとんどだと思います。ぼくもそうだった。それでも、なぜメルマガがなくならないかというと、購入意欲の高いユーザーはメルマガから流入しているからなんです。

本が売れなかったりした時、多くの人は、売り方が悪いとか、編集が悪いとか、書店が悪い、広告が悪い、という。本自体が悪いとは言わない。本は、グーテンベルグが印刷機を発明して活版印刷が広がった時から、ハッピーなメディアで、一番はじめに載ったコンテンツが聖書で、いまだに一番のベストセラーです。いきなり最強のコンテンツが載ったので、本というメディアが悪いとは、誰も言わない。けれど、本はプライベートスペースには入れないんです。しかし、メルマガは入れます。メルマガでコンテンツを伝えると、そのメルマガの著者って最強になる。

編集者の力はいろんなところで必要とされています。メルマガの編集をしたっていいんです。実力があって、それをどう世間に伝えたらいいかわからないという困っている人のところに行くと、編集者の力は、重宝されます。重宝されて、その悩んでいる相手がぐーんと伸びていく。むちゃくちゃ楽しいですよ。


そういう世界が待っている。それを、Twitterでつぶやけばいいだろうか。Twitter、Line、Facebook、とメルマガ、これ全部、違う雑誌みたいなものです。フリーペーパー、有料のペーパー、書籍、ムック、文庫本、別のメディアなのと同じです。ちょっとずつお客さんが違う。それに合わせて編集しなおす。メディアに合わせないと、売れなかった。

ネット上でも、メディアごとに違う、ということが分かっていない人が多い。完璧に載せるべきコンテンツが違う。Twitterはいつ、さわりますか? 通勤の時とか、時間が決まっている人が多い。雑誌も、毎週決まった日、曜日だから買う。定期的に出ないと、買わない。Twitterを伸ばすなら、例えば、佐々木俊尚(としなお)さんがしたみたいに、同じ時間帯に、役に立つニュースをずっとつぶやいたりするのが重要です。

Twitterも、Facebookもメディアなんです。ここに、フォローをためていく。ぼくは、1万5千人くらいいて、大体何か出すと、1万人は見てくれる。さらに凝ったものを出すと、10万人は見てくれる。10万人が確実にいる場所に、紙の広告をすると、かなりの値段がしますよね。


情報はストックする

今、皆さんがやっている仕事は、フローなんですね。やると終わる、やると終わる、永遠に仕事に追われて、しんどいと思うんです。ツイッターの投稿を考える、フェイスブックの投稿を考える。有料メルマガをやってると、有料の人が増えていく。ずーっとやっていくと、ストックしていくのです。

ネットでの行動は、すべてストックになる行動をしていきたい。それをやると、らくになっていく。顧客がついてきてくれる。毎月、固定の収入があると、本つくらなくてもいい。ちょっと話題になるとビジネス本の依頼がきて、年間4~5冊書く、何年かたつと1冊くらいになる、ということがあるけど、メルマガでやったら、ずっと顧客がついて、年に1冊か2冊、出すだけでそれが充分しっかり売れる。

誰かを編集の力でで助けたいなら、雑誌とかで、フローになってしまうのを編集するのではなく、ストックできるところの編集をやっていく。すると、こっちも楽になっていく。自転車操業しなくてよくなる。

ネットだと、誰が買ってくれているかわかる。顧客の情報が分かっていく。難しいのは、リアル。リアルは不便です。

お客さんとつながっていることは、ビジネスで一番大切。ライトパーソンに情報を伝えることが一番重要なんです。『インベスターZ』は、株の学校とコラボしていて、株の学校のメルマガに、『インベスターZ』を紹介してもらった。最後のところで、ECサイトで、1000人に10巻セット、6000~7000円ですね、売り出した。そしたら、1000人、1万冊ですよね、3時間でなくなった。本が3時間で1万冊売れるということ。リアルであまり経験できない。ネットの中で、正しく、情報を伝えると、それが起こるんです。

講義風景

編集者が輝く時代

会社を始めて4年ですが、SNSがうまく運用できて、フォロワーがたまってきた。どういうことが起きているかというと、『宇宙兄弟』限定版が出ると、公式ストアで購入してくれる人が確実に増えている。ECサイトを持つと、始めから自分たちが編集したものをファンに確実に届けることができるんです。ネットの力を借りると、よりニッチな人たちにも、正しくつながることができます。

リアルでいくと、1万5千店の書店に情報がばらけてしまって、限定版が発売されたことをファンに気づかせるとなると、膨大な広告費を投入しなくてはならなくなる。でも、インターネットでつながっている状態だと、Twitterでつぶやくだけでしっかり気づいてもらえる。


結局、キュレーションが必要な理由は、見つけてもらうのがたいへんだからです。コンテンツって、宝物ではない。見つけてくれた人は、拡散してくれる可能性があるから、面白いところをきちんと見せてあげることも重要です。どういうふうにしてインターネットを使っていくか、すごく重要なんです。


時代に合った編集者とは、インターネットをどう使うかを知っている人、といえるでしょう。多くの編集者は、ムック、雑誌、文庫本、単行本、ビジネス本、小説 といった違いは知っていると思うのですが、Twitter、Facebook、LINE、メルマガ、ホームページ、といったインターネット上のサービスの違いを知らないかもしれない。その違いを知っていると、それを使いながら、社会を、時代を編集できる。自分の考えていることを、発信していくことができる。世の中を変えていくこともできていく。

ものごとは、伝えないと始まらない。編集者は「伝えること」がプロ。なのに、いまの編集者は、「本作りのプロ」になっている。本の入稿の仕方、校了の仕方、印刷のこと知っているプロになっている。そうでなくて、伝えること、どうすれば分かりやすく、面白く、伝えられるか。そこにもどると、時代のニーズに合って、編集者が輝く時代になっていく。

ものの時代→質の時代→デザインの時代→安い時代→次にくるのが、編集の時代となってくる。

「編集者」こそ、今の時代は活躍できて、社会からニーズがある。出版業界の中で、閉じているよりも、視野を広く持って、新しい業界に飛び込んでいったほうが、相当、楽しい時代が待っているのだろうと思う。



(平成28年5月19日(木)AJEC編集講座での講演より)

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