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株式会社扶桑社 月刊マモル編集長 高久 裕 氏 自衛官の魅力を読者に伝えるための発想力

 

高久 裕

株式会社扶桑社 月刊マモル編集長 高久 裕

日之出出版で「Fine」、「FINEBOYS」副編集長、ダイヤモンド出版での自動車雑誌「カー&ドライバー」の編集に携わったのちに、1987年に扶桑社に入社。「ESSE」「Caz」、その後「週刊SPA!」「ESSE papa 」 など数々の雑誌に携わる。2005年からカスタム出版の立ち上げに関わり、2006年創刊準備号、2007年「MAMOR」の編集長を務め、現在に至る。

2007年に創刊し、今年で6周年目を迎えた防衛省の広報誌「MAMOR」をご存知だろうか。自衛官の制服を着た女性アイドルのグラビア、自衛官の婚活、ミリキャラ占いといった、防衛省のイメージからは想像もつかないやわらかなテイストの雑誌だ。これは扶桑社が編集・発行・発売をする広報誌であり、書店店頭にも並ぶれっきとした一般雑誌である。
一体、なぜこうした雑誌が生まれたのか。「MAMOR」編集長の高久裕氏に伺った。

出会い頭のような偶然から生まれた雑誌

防衛省の広報誌「MAMOR」は、何かとメディアで話題になっていますが、そもそも広報誌を一般書店で流通しようというのは扶桑社さんからのご提案だったのでしょうか。

創刊当時は防衛省ではなく防衛庁でしたが、一般書店に流通させることだけは先に検討していたようです。「MAMOR」を刊行する前には、「セキュリタリアン」という社内報のような広報誌を発行していたんですけれども、防衛弘済会が作って主に組織内だけで流通していた媒体なので一般国民の目に触れることがなかった。それでは広報誌とは言えないし、せっかく作るんだったら、一般国民が読める広報誌を作ろうといった議論が内部でなされていたんですね。で、防衛庁が民間の出版社に依頼してはどうかと検討をしていたところに、私がタイミングよく一般雑誌の企画を持ち込んだんです。まるで、四つ辻で出会い頭でぶつかった子が学校に着いたら転校生として自分のクラスにいた、というような劇的な出会いでしたね(笑)。

それが2005年のことですね。

ちょうどその頃、私はカスタム出版部に異動して、スポンサーを探してたんです。カスタム出版はスポンサーありきの出版、いわゆる企業出版ですから。で、私は「週刊SPA!」の副編集長時代に自衛隊を特集した経験があったので、自衛隊も若い人向けのソフトな広報が必要と感じているはずだと思って声をかけてみたんですよ。

とは言っても、防衛庁に企画を通すのは大変だったんじゃないですか?

担当部署につないでもらうまでが大変でしたね。防衛庁の代表電話に電話することから始めたんで、企画の主旨を言ってもこっちの意図がまったく伝わらないわけですよ。だから、たらいまわしにされて。ようやくつながったのが大臣官房広報というセクション。さっそく提案すると、「われわれもそういう雑誌が作りたかったんです」と。けれども随意契約はできないということで、公募して入札が行われて、扶桑社が無事落札したという流れでした。

企画内容はどうでしたか? アイドルを起用するといった企画は創刊当初からのものなのでしょうか。

創刊当初のコンテンツは、最初に持ちこんだ企画とほぼ同じなんですよ。初めからグラビアを企画書に盛り込んでいたし、つくりをマニアックにしないとか、専門用語を使わないとか、戦車や戦闘機はあまり出さないといった具合に、誰でも手にとりやすいものにするというコンセプトは一緒ですね。戦闘機や艦船と言ったようなミリタリー系に興味がある人ではなくて、普通の読者に読んでもらいたかったので、きっかけは好きなアイドルが載っているということでもいい。とにかく手にとってもらって読んでもらうというのが第一義でした。防衛庁も「自衛隊にまったく興味のない人に読んでもらいたい」という意図があったので特段齟齬はありませんでしたね。

自衛官だって僕らと変わらないひとりの人間

なるほど。自衛隊にまったく興味のない人向けに広報誌を作る場合、二つのアプローチの仕方があるんじゃないかと思います。一つはグラフィックに凝って、写真などでかっこよく自衛隊をみせるやり方。もう一つは「MAMOR」のように親しみやすさを全面に出して、自分の身近に感じてもらうやり方。いわば、硬と軟の両方があると思いますが、なぜ後者を選んだのでしょうか。

後者のほうがかっこいいからですよ。創刊当初は、まだ手探りの部分もあって、戦車の写真なども掲載していたんですが、号を重ねていくうちに気が変わりました。人がかっこいいなと思い始めたんです。たとえばスーパーマンが「僕が日本守りますよ」と言われても「ああそうですか。よろしく」で終わってしまいますよね。けれども自衛官たちはスーパーマンじゃない。死にたくないし、家族を守りたいし、お金もほしいし、美味しいものも食べたいし、できたらラクしたいし、たまには寝坊だってしたいし、でも国を守るのが任務だから、今ここから飛び込んで行きますっていう人達なんです。そのギャップがかっこいいと思いました。そんな覚悟って自分ではなかなかできません。だから、自衛官の素顔を見せて、自分たちとまったく変わらない人間なんだというところを見せたかった。

なるほど。彼らがみんなスーパーヒーローだったら面白くないですもんね。

全然面白くない。「ああよろしく。頼んだわ」って、それで済んでしまう話だけど、彼らはそうじゃない。内面は本当に僕らと変わらない弱い人間なんだけれど、日々心構えを新たにし、厳しい訓練を積み重ねて、イザっていう時は僕らの前に立ち、身を盾にして守ってくれる。時には、日頃“自衛隊反対!”と言っている人を守るためにさえ、わが身を投げ出す。だから、「MAMOR」の骨幹にあるのは「MILITARY REPORT」という各部隊の訓練を特集した記事なんです。自衛隊って毎日何をやっているのか普通はわからない。僕もまったく知りませんでしたし、知ろうとも思わなかった。当たり前なんですけれど、25万人の自衛官は毎日、毎日厳しい訓練を積み上げてるんです、国の平和を守るために。だから、できるだけ丁寧に訓練風景を伝えて、装備や戦車などではなく人を前面に出すようにしています。

「MAMOR」の取材編集を続けられているうちに、徐々にそういうふうにお感じになったんですか?

そうですね。僕もそれまでまったく自衛隊に興味がなかったし、よく知らない状態で始めたから、変に幻想を持っていなかった。それが良かったんでしょうね。最初から自衛官のことよく知っていて、自衛官は強い男たちの集団なんだという頭で取りかかっていたらまた違った結果になっていたかもしれないですけれど。

婚活特集も話題になりましたね。読者ウケを狙ってやったわけではないんですか?

いやいや、まったく狙ってやったわけじゃないんで、「え~、こんなにウケるのか!」っていうのが正直なところです。婚活の成果を期待してやったわけじゃなくて、自衛官の素顔を見せたかったというのが本音です。僕らと変わらない一人の若者としての自衛官の素顔を読者に伝えるためには、単純にプロフィールや好きな食べ物、好きなタレント、そして趣味なんかを聞くのがいいんじゃないかなと。それを聞くためには婚活みたいな「僕と(私と)結婚しませんか?」というのが一番手っ取り早いだろうと考えたんですよ。まさか「婚活」という形をとったんですけど、それがこんなにウケるとは思わなかったですね。

この婚活企画もすぐに防衛省からOKがでたのでしょうか。

特段、何も言われませんでした。本当に自衛官は出会いの場が少ないというのもあったんだと思います。自衛官の女性は全体で約4%しかいませんから。カスタム出版って、スポンサー企業の意向に振り回されたりして大変だ、というイメージがあるじゃないですか。でも、この「MAMOR」の場合はそういうのがない。もちろん防衛機密というのがあって、記事にできないものがあり、それは我々素人にはわからないので校正チェックはしてもらうんですけれど、彼らは常に即断即決をするという訓練を受けていますから、話が早い。しかも、何があっても人のせいにはしませんし、自分で責任をとる人たちなんですよ。だってそうでしょう。爆撃受けてどうしようなんて言っている暇はないんだから。だから、基本的には僕らに任せてくれますし、検討事項もすぐ回答が返ってくる。本当にやりやすいパートナーです。

そうなんですか。御役所相手のお仕事は相当に大変なのかと思っていましたが、イメージが違いましたね。ところで、実際に取材をしてこられて、心に残ったシーンなんかはありますか?

やっぱり3.11の時に彼らの本当の実力を見たという気がしました。震災後に仙台から被災地入りして取材をしたのですが、雪の降る本当に寒い日に、自衛官たちは黙々と瓦礫の中の遺体を探している。取材している僕は寒いもんだからトイレに行きたくなっちゃって、でもあたり一面瓦礫の山なんでトイレなんかないわけですよ。自衛官はどうしてるんだろうと思って聞いてみたら「僕らはトラックの中でやっています」と言う。彼らは基地からビニール袋持ってきて、その中にして基地に持って帰るということを毎日していたんです。そんなことをしなくても、あたりは一面瓦礫の山なんだからそこいら辺で処理してしまってもいいようなもんです。でも彼らは、「そんなことできませんよ。ここにはちょっと前まで人が住んでいて、居間だったかもしれないんですよ」と言う。それは上からの命令じゃないんです。彼ら自身がみんなで話し合ってそういうルールを決めていた。それが自衛官なんです。

マニュアルではなく自分たちでそういう判断をしていたんですね。

こんな巨大な津波が来るなんて誰も想定してないわけで、行動マニュアルがあるわけではない。その時にトイレはどうするかなんて誰も考えたことがないんですよ。瓦礫の中には茶碗や子供の人形とか落ちているわけで、「そんなところにできませんよ」って若い自衛官に言われて、僕はダメだなって思いましたね。彼らがいなかったら瓦礫の中でしていたんじゃないかと思います。

頭が下がりますね。実際自衛隊のイメージも震災後にずいぶん変わりました。

自衛官の純粋な思いやりというか優しさに感動しっぱなしでしたが、こうした活動が一気にメディアに露出したので、実践に勝る広報はなしと思いましたね。それは広報誌を作る身としては悔しくもあり、ありがたくもあり、でしたけど。

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