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編集者・評論家 津野海太郎氏 電子本をバカにするなかれ
本の商品化、出版の産業化に限界?

確かに、読者の側からすれば現在の状況は歓迎すべきことかもしれません。しかし、私たち出版側の人間とすれば……。


もちろん、話はそこで終わるわけではありません。私たちの「本の黄金時代」は単に光り輝いていただけではありません。実は、その背後に、暗い一面を併せ持っていたんです。
印刷技術の進歩に支えられて本は商品になり、出版は産業になりました。そしてこの傾向は産業革命によって加速され、20世紀に入って商品としての本の大量生産、大量宣伝、大量販売方式を確立する。おかげで本の定価が下がり、一介のサラリーマンまでが、自分の家に小さな図書館を持てるようになりました。そのような産業化を前に前に推し進めたエンジンは「利潤の追求」です。
いったん起動したエンジンを止めないためには、無理にでも人々の本への欲求を煽り立て、たえず売上を伸ばし続けなければならない。
戦後右肩上がりの成長を続けてきた年間売上高がピークを迎えたのは1996年のことです。それまで、このエンジンは正常な働きを続けていたのかもしれない。しかし、96年をピークに売上は減少を続けます。売れなくて返品が増えたから、その分を補うために発行点数を増やす。その悪循環の中で、出版人はもがき苦しんでいるわけですが、それはこの「利潤の追求」というエンジンが正常に機能していないにもかかわらず、それを止めるわけにはいかないからです。


それは極端に言えば、「20世紀は書籍のバブル時代だった」、だから今「利潤の追求というエンジンは止めるべきだ」ということですか?



そうは言いませんが、20世紀という時代が書物にとって非常に希有な時代であったことは間違いのない事実です。それは「利潤の追求」というエンジンの推進力が唯一無二の推進力として極めて有効に機能していたからです。
しかし、今はそうではない。とすれば、それに代わる、あるいはそれを補佐する新たなエンジンを開発すべき時に来ているんじゃないか。それは、おそらく従来の企業的発想の中からは出てこない。企業というのは利潤追求を第一の目的とする集団ですからね。


「利潤追求」のエンジンに代わる推進力が求められている

その証拠に、電子本発祥の地であるアメリカで、様々なデバイスやプログラムを次々に作り出しているのは企業ではなく、個人なんです。それも変な個人ね。アップルだろうがアマゾンだろうが、変なことを考えて変なことを追求している個人が新しい、面白いことを考えている。ところが、黒船に襲来される日本側は、すべてのことを企業や企業内ルールに従ってものを考えるサラリーマンがつくっているわけです。ここが大きな違いなんですね。
要するに、もう向こうの人たちの推進エンジンは企業的利潤追求の論理からは逸脱している。それ以外の所から発想したものをアマゾンやアップルがうまく統合して商品化しようとしているわけです。ところが、日本はまだ「利潤の追求」というエンジンがうまく機能しないというところで悩み、苦しんでいるんです。


つまり、電子本の登場が紙の本を消滅させるか否かということではなく、書物の商品化、出版の産業化という近代資本主義の構造が限界を迎え、それと期を一にして電子本が登場してきたのだということですか?


だと思います。いま着目すべきなのは「電子書籍か紙媒体か」というような単純な二元論ではなく、書物というものが商品化され、出版が産業化されてきた歴史、そしてその現在にこそ目を向けるべきだろうと思います。



そこに目を向けた時、私たちはそこに何を見るべきなのでしょう。


私は今、仮説として4つの段階を考えています。第一の段階では、好むと好まざるとにかかわらず、新旧の書物の網羅的な電子化が不可避的に進行していく。第二にその過程で、出版や読書や教育や研究や図書館の世界に、伝統的な形の書物には望みようがなかった新しい力がもたらされる。第三に、それと同時にコンピュータでは達成されないこと、つまり電子化が全てではないということが徐々に明白になる。その結果、「紙と印刷の本」の持つ力が再発見される。そうした第四段階として「紙と印刷の本」と「電子の本」との危機をはらんだ共存のしくみが、私たちの生活習慣の中にゆっくりともたらされることになるでしょう。


電子本と紙媒体の共存の時代ですね。では、そのような時代にあって、私たち編集者は何を考え、追求すべきなのでしょうか。


もし、私が20代の編集者だったら、もう間違いなく電子本の世界に向かうと思いますが、それは大変なことだと思いますよ。つまり、さっきも言ったように企業内サラリーマンとしてものを考え動こうとしても、向こうの人間に勝てっこないのはわかっているからです。企業や組織に縛られずに、自分一人の力で自由にものを考え、行動していく覚悟があるのか。それが試されると思いますね。
で、私が仮に40代から50代のベテラン編集者だとしたら、やっぱり紙の本をやり続けるだろうと思います。ただ、その時に紙の書籍の発行点数は多くて現在の半分の4万点、少ないと2万点ぐらいにまで落ち込むのはわかっている。その中で、なぜ自分は紙の本にかかわるのか、インターネット全盛の中で、紙の本にできることはなんなのかということを徹底して考え抜くしかない。そのなかから磨き上げられた物が出てくるでしょう。その可能性に賭けるしかない。そう思いますね。





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電子本黎明期より本と出版の未来を考察してきた津野氏による書物史・文明史から捉え直す電子出版時代の読書論。



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